人との結び

和服屋の「寿寿」さんと和に関するお話をしている中で思った事や日々読んでいる本について考えを述べます。

 

経営者だった母親が、なぜ神道や神社を大切にするのか疑問に思っていました。母親に連れられて、大晦日の夜には秋田県護国神社で除夜の鐘を聞いて年越しを体験していました。それが自分でも習慣化していたり、それをしないと落ち着かない性分となっていました。なぜ、そういう気持ちになるのか?なぜ、そのように行動するのか疑問に思っていました。

 

ある日、寿寿さんに家にある和服を見てもらいました。まさか、自分の家紋がついた代物が出て来たり、和財布が出てくるなど驚きの連続でした。さらに驚いたのが赤ちゃん用のケープ(袖なしのアウターウェア)が出て来た事です。市販品ではなく、手作りでした。しかも綿の種が服の中に入っているため、年代的に古いものの様です。生前の祖父が私の曽祖母はロシア人のハーフだったと言ってたことから、もしかすると曽祖母が作ったのか誰かに制作を依頼したのかもしれません。

 

少し話が脱線しますが、私が経営理念として掲げている事は母親と同じで社会に役立つことでした。ちなみに、母親が経営者をしていた時に「田ローネ」という店名を使っていたので、私も屋号として使いました。この名前の由来は福祉的な事をやりたいと母親の思いがあり「福」という漢字をバラバラにすると「田、ロ、ー、ネ」と分けてお店の名前にした経緯があります。

 

話を和に戻しますが、母親の経営者としての視点や考えを身近に学んでいるつもりでした。でも、母親だけを見ていただけでなく、母親が見ている物も私が見ていた事に気づきました。アニメ「サイコパス」の中で、このような台詞があります。「人間について知りたいと思ったら、人間を見ているだけではいけない、人間が何を見ているかに注目をしなければ」と。まさに母親に神社に連れられて、寒い中で冷水で手と口を清め、お堂の賽銭箱の前で小銭を入れて、鐘を鳴らし、二礼二拍一礼をします。人がやっている事を自分も体験して学ぶ事が大切なんですね。ちなみに神道についてはあまり明確なルールが定義がない事に疑問があり「神道から見たこの国の心」を読みました。なるほどと関心する事が多かったので、一部を引用します。

 

①言挙げ(言霊)とは言葉に力があるから、むやみに言挙げはしない。

②神道とは他の宗教のように聖書やコーランに当たる教典がなく、生活に組み込まれている。さらに、その教えをいっそう身に沁みて感じたいために山に登ったり、滝に打たれたりする事で感覚的な刺激を与える事で神の世界に近寄れるという発想があるとのこと(仏教的な考えでは小乗)。

③祭り、舞い踊りなどを含めた芸能の始まりは神様に見てもらうため、人間の観客は二の次とのこと。

④柏手を打つ本当の理由は数は関係がなく、重要なのは音を鳴らすこと。

⑤古代日本では朝鮮と交流が頻繁にあり、その形跡として奈良県で発掘された陶片には朝鮮製のものが多く出土されている。

 

他にも知らない事があり、改めて神社や神道に関わる事柄の意味を深く理解できました。余談ですが、最近、話題になっている「君の名は。」を鑑賞したのですが、「結び」という言葉がとても気になりました。神道の要素が映画の場面に沢山あります。

映画の予告

この映画では震災や都会と地方、恋愛、デジタルとアナログなど色々な要素が散りばめられていて、色んな視点で考えれる作品となっています。私は宮城県で東日本大震災を体験して、死を連想する事がありました。しかし、地域の商店街の揚げ物屋さんが無料で揚げ物を提供してくれたり、ツルハドラッグさんが後払いでいいから先に食品を提供してくれたりなど、地域の人たちの「結び」によって助けられました。その後、「好きな事だけで仕事をしていいのだろうか?」頭の中でグルグルと葛藤が続きました。ある日、吐く息が白くなる中で、1台の車が凍結した路面で立ち往生している光景を目にしました。体が自然と動き、周りにいる人たちと一緒に車の後部を手で押して進めるように手助けしました。あの時、人の役に立っているという思いを強く感じました。それから、仕事だけでなく私生活の面でも悩む事が増えて、地元の秋田に戻りました。それが正しいかどうかは分かりません。地元に戻り、前々から知っている人だけでなく、起業でお世話になった人達など、色々な地域の人たちとの「結び」を感じます。

 

私が作ったITカウンセラーという職業も「結び」によって作りました。情報系の大学を卒業して、IT関係の仕事もしていましたが、大学の頃から心理学にも興味がありました。だったら、二つを結びつけてITカウンセラーを作ろうと思いつきました。そこからは、派遣やパートをしながら通信教育で心理学の勉強をしました。心理学の勉強はとても楽しかったのですが、どこか引っかかる事があり漠然とした悩みがありました。それを解決してくれたのが「セラピスト」という本でした。実際に心理学を学び現場で働いている人の取材や著者自身がカウンセリングを受けた感想を述べるだけでなく、心理学を目指す人達の背景も知る事ができました。その中で、芸術療法に関する記述があり、非言語が人に齎す影響は小さく見てはいけない事に気づかされました。先ほどの「サイコパス」のセリフと関連するように「人間が何を見ているかに注目をしなければ」が重要だと気づかされます。

 

日本人は何を見ているのか、それを知るには芸術療法に何か糸口があるのではと感じました。深く掘り下げて、本「芸術療法」の中で気になる一文がありました「日本人にとっては庭園を中心として自然に共感し、庭園に己の人生を一体化させていくという同化思想が強い」と。さらにヘルマン・ヘッセという作家は「庭造りの楽しみ」を通して癒されていた記述もありました。土地という環境は人間にとっては大きな影響を与える空間なのではと推測しています。あまり確信は持てませんが、今後も色々な人や本と触れ合いながら、人が癒され学ぶ機会を仕事の中でやっていきます。

 

母親と息子である私の家族という「結び」、経営者の思いとお店の名前の「結び」、和である神社や庭園と日本人の「結び」、芸術療法と庭園の「結び」など様々な「結び」を日々感じます。

 

最後に写真の紐の結びは叶結び(正確には二重結び)と言います。古来から伝えられてきた日本独特の結び方で、結び目の裏表の「口」と「十」の字で「叶結び」と呼ばれるとのこと。祝儀袋の水引に使われたり、お守りにも使われているので、興味があればお持ちのお守りの結び目をご覧ください。